
バンダイホビー事業部開発者インタビュー!
「emotion style 化物語」開発ご担当の長谷川さんインタビューに続きまして「MGフィギュアライズ 仮面ライダーW(ダブル)」開発ご担当の野口勉さんに、全2回に渡ってお話を伺います。
よろしくお願いします!
一風変わった「ものづくり」経歴は、少年期の体験から
──野口さんがこれまでご担当されたプラモデルのお話をお聞かせ下さい。
バンダイに入社して、一番初めに作ったのが、5年前に発売した「MG ガンダム Ver.O.Y.W.(エムジー ガンダム バージョン ワンイヤーウォー)」です (以後「O.Y.W.」と表記)
ガンプラでは、他に「MG ストライクフリーダムガンダム」「MG フォースインパルス」などの『ガンダムSEED DESTINY』系のMGは、開発に携わりました。
あと昨年の「PG ガンダムアストレイレッドフレーム」もですね。
──「PG アストレイレッドフレーム」はすごかったですね。私も組ませて頂きましたが「工業芸術」と呼ぶにふさわしいできでした。
でも、僕はバンダイ社内では「ガンダムじゃないキャラクター」を担当するイメージが強いんです。
特に『ケロプラ』を担当している期間が長かったので、そのイメージが強いみたいですね。
あと『エウレカセブン』『ゼーガペイン』『R3』『1/350宇宙戦艦ヤマト』シリーズ等を経て、今はポケモンのプラモデルなども担当しています。
──『SEED DESTINY』のような王道プラモデルを開発しながら、ガンダム以外の商品も精力的に開発されていたのですね。
そうですね。僕はバンダイで仕事をする前は、住宅メーカーで開発の仕事もしていたので、物づくりに対する抵抗感が薄いのかもしれないです(笑)
──住宅の開発、ですか?
住宅メーカーからバンダイに移って、ガンプラを主に開発しているチームに所属しました。
中途採用ということもり、初めから業務を任せられた部分もあったのですが、(その時には)ガンプラの商品担当がすでに決まっており、漠然と「新しい考えで、ガンプラで無いものの開発をやってほしい」という要望が僕の(開発の)スタートでした。
でも「業務を覚える」ということと「新しい見方での物づくりを」ということで、ガンプラの「O.Y.W.」の開発も任せられました。
「O.Y.W.」はゲームに登場するガンダムをモチーフにした商品ということもあり、いかに「ゲームユーザーを取り込めるか」ということと「ゲームユーザーでも分かり易い」を、考えた物づくりに挑戦した商品です。
また、入社した年に「ケロプラ」を企画し、商品開発に取り組んでいましたね。
──ケロプラの5体合体するギミックも、野口さんがお考えに?
そうですね。初めの5体合体は、社内でインパクトがあり、企画会議で、爆笑でした (笑)
もちろん細かい部分や全体的なバランスは、社内の設計で詰めてもらっていますが、ある程度の規格や、後で設計が進められるような大枠は作ります。
──「合体」は昔の子供用プラモデルの様な、懐かしさを感じるテイストでしたね。
子供の頃からおもちゃに触れる事が多くて、プラモデルや超合金等も触れてました。
ものを作ること自体が好きだったので「これとこれを組み合わせるとこんなことができる」というのを自分なりにやっていました。
小学校4年生の時には、兄から貰ったエアガンやガスガンを全部分解して、組み立て直すとか、自分でBB弾を鋳造したり。
──BB弾を自分で鋳造!? それはどのような方法で…?
父が歯科技工士なんです。
だから加工用機材とか天秤とか家にあって、そういうものに触れることが、一つの遊びになっていました。
鉛だけだと硬くならないから、銀をちょっと入れて鋳造して、それ1個が当時の一番重たいBB弾7~8個ぐらいと天秤に乗せて釣り合った(笑)
──よいこはマネしないように(笑)
ケロロは、はじめ自分が「こういうのがあったらいいなあ」という思いや「子供の時に遊んでたものを現代で一般的に販売できるような商品形態にしたい」などそういう事を考えて作ってます。
(同席のバンダイ営業さんからひとこと)
アイデアがいつも面白いんですよ。SEED系のMGも、バックパックのロック機構は彼からのアイデアですし。
去年の5月ぐらいから東京に居ますが、それまでは静岡の現ホビーセンターに居ました。
社内で金型を作っていたり、成形したりしている現場という、ものづくりに対して深いところを知ることができる環境があったので、現実的に落とし込めるアイデアも浮かびやすかったです。
──現場を知っておられるからこそ、そういう斬新な設計を企画の段階で盛り込んでいけるのですね。
「知ってる」と言ってしまうと、本当の現場の方から怒られると思う(笑)
少し離れたところから、でも近いところでものづくりの現場を見ていたので今回の「MGフィギュアライズ 仮面ライダーW」の中でもそういった部分が生かされています。
孫悟空、そして特撮キャラのプラモ化へ進んだわけとは……
──「MGフィギュアライズ 孫悟空」を開発なされた経緯などをお聞かせ下さい。
僕が入社した時から、すでに「プラモデルのメイン=ガンプラ」で、もちろんそれが決して悪いことでは無いんですが、世の中には沢山人気のあるキャラクターが居るのに商品化できていない。
キャラクターフィギュアで言えば、完成品のクオリティが上がってきて、市場の流れの中で「キャラクタープラモデル」が、やはり無くなって来た。
とは言いつつもプラモデルの技術自体は進化し続けているので、そういった技術を再度使うことによって完成品に負けないようなプラモデルが作れて、メカよりキャラクターが好きな方でもプラモデルをより楽しんでもらえるのではないか。
そこで「MGフィギュアライズ」を立ち上げ、よりコンセプトを伝えられると感じた「孫悟空」を選んだというのがはじめですね。
勿論「MGフィギュアライズ」はドラゴンボールだけで終えると思ってた訳では無く、根本に色んなキャラクターをやっていきたい考えがあります。
「孫悟空」は王道のアニメキャラですが、「特撮」・「女の子」・「タレント」など、別のカテゴリにもチャレンジしていきたいと考えています。
それぞれにものづくりのポイントになる所があり、その部分を複合的にやっていくことで従来には無い商品力の知識と技術を身に付けていけますね。
今回の「仮面ライダーW」のような「特撮」というカテゴリでは「実際にあるものに似せる」とか、ベルトなど「実物にそっくりな再現」をプラモデルならではの精密再現をすることができました。
特撮は「本物」があるので、それを見ることでアニメでは描かれないようなリアリティのある部分を再現していくことが可能になります。
今回特撮にチャレンジしている理由の一つになっています。
──非常に広い視野で開発をされているのですね。参考になります。
「『仮面ライダー』という生物」のイメージを入れて欲しい
──今回は特撮キャラの開発ですが、特撮という「実物」がある状況で、アニメキャラの悟空との違いで苦労をされた点などありましたか?
もしかしたら、特撮キャラのほうが開発しやすかったかもしれません。
──やはり実物があるから、ですか?
実際に『仮面ライダーW』の製作に携わっている 石森プロ 早瀬マサト氏 とお話させて頂いた時に「我々が本来目指しているものは着ぐるみ然とした『仮面ライダー』では無い」とお聞きしました。
もちろん映像として格好良く描かれているんですが、早瀬氏のイメージでは「『仮面ライダー』は人間が変化したものであり、筋肉の表現やプロモーションにも生物的表現を考慮してほしい」という話を頂きました。
今回のプラモデルでも、単純に実写にあるものをそのままトレースする形ではなく、生物的表現を考慮しながら打ち合わせを重ねました。
例えば腕を曲げた時の筋肉の表現などで「MGフィギュアライズ 仮面ライダーW」にはそういう生物のイメージをあえて入れて欲しい、と。
ですので、実写の映像、写真、アクションスーツの図面等を参考にさせて頂いてはいますが、その中で早瀬氏が仰ったような「生物的表現を考慮した『仮面ライダーW』のイメージ」を強調できるラインを今回の「MGフィギュアライズ 仮面ライダーW」で改めて引きなおしていく開発の形をとっています。
──実物があるから簡単、ではなくそこからさらにキャラクターの本質まで立体で表現していくのですね。
なんと 超!貴重な開発資料をあみあみのために公開!
(机の上に書類を広げる野口さん)
これらの書類が東映さんとやりとりをしていた時の資料の一部になります。
(あまりの貴重さに驚くあみあみスタッフ)
──これは、なんというお宝……!!撮影しても大丈夫なんですか!?
今回の量は資料全部の10分の1くらいでしょうか。
(外出先でミーティングしていることが多いので) あまり会社にあんまり居ないんですけど(笑) 商品はこういう資料のやりとりで、日ごろ実際の映像作品を作っていく方達とお話をしながら作っていますね。
こういう資料や写真集などを見ながら、細かい部分まで忠実に再現しようとしてものづくりをしてます。
──静岡ホビーショーで公開された際に、数ある『仮面ライダーW(ダブル)』の立体の中で、かなり筋肉質でマッシブなイメージを受けました。
結構多くの方からその意見を頂きました。
最近は、立体物の製作手法として、細身でカッコいいラインにアレンジしていく商品が多い中、今回のプラモデルでは、実写映像のラインをベースに考えています。
一度、その実写のボディラインに合わせて製作した後、さらに「より生物的なイメージ」に近づけるようにメリハリをつけたので、(静岡HSの時は)他のフィギュアから受ける印象から、よりマッシブに感じたのではないでしょうか。
例えば「MG ストライクフリーダムガンダム」や「MG フォースインパルスガンダム」は、僕が担当していたんですが、当時サンライズで本編の作画監督をされていた重田智氏から「野球の新庄選手みたいに、細いけどすごく筋肉がしっかりしている形を目指したい」という話を頂いて、そのように取り組みました。
自分が担当しているプラモデルでは、実際にある形だけでなく、製作に関わった方々の意見をもらい、より本物や、製作者の考えを具現化していきたいと考えています。
──プラモでここまで生物的なデザインを出せるのは凄いですね。その辺りの開発時のお話もお聞かせ下さい。
実は「MGフィギュアライズ 孫悟空」がすごく開発に苦労して、今回の「仮面ライダーW」は、その悟空の経験ベースにする流れで製作できました。
ですから、悟空ほど曲面が多くない、デコボコしてない「MGフィギュアライズ 仮面ライダーW」のほうが、そういう意味では作りやすかったです。
「孫悟空」で拓けた「MGフィギュアライズ」の道
「MGフィギュアライズ」を立ち上げたのは、これまでのメカを設計するようなCADシステムではデータを作るのが非常に難しかったのですが、技術の進化により「孫悟空」のようなキャラクターのプラモデルが実現できる環境ができてきた、というのもありました。
立体物を簡単にスキャニングしてPCに取り込めるようになった新技術や、PC上でデータを盛ったり削ったりできる新しいソフトを駆使しながら「MGフィギュアライズ 孫悟空」を製作しました。
今回の「仮面ライダーW」も、そういった新しい技術を部分的に用いながら製作をしています。
もし「MGフィギュアライズ」の第一弾が「仮面ライダーW」だったら、すごくハードルが高かったと思います。
実際は「MGフィギュアライズ 孫悟空」の時に、かなり高いハードルを越えた部分があり、そのとき培った多くの技術というのが、今回の「仮面ライダーW」に含まれています。
「MGフィギュアライズ」第1弾では、圧倒的な可動や筋肉が盛り上がる様な躍動感を表現できるモチーフとして悟空を選びましたが、今後のシリーズ化にあたって、はじめに悟空のような曲面が多いキャラクターをクリアすることで先の商品も見通せた形になりました。
──最初に非常に高いハードルを超えられたからこそ、先の展開も考えられるのですね。
(つづく)
開発者インタビュー「MGフィギュアライズ 仮面ライダーW(ダブル)」第2回予告
次回もMGフィギュアライズ 1/8 仮面ライダーW サイクロンジョーカーの秘密に接近!
ベルトギミック、複眼パーツなどより細部の構造に迫ります!
野口さんによるあみブロでしか読めない情報が満載です!
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※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品とは異なります。